紳士の掟

 そのいち。
 訪問やデートの際には必ず事前に相手の予定を確認すること。急に現れて拉致らないこと。

 そのに。
 部屋で待つ時はベルが鳴る、もしくはノックの音が聞こえるまではドアを開けない。ドアの前で待ち構えない。

 そのさん。
 ドアを開け、顔を見たらまずあいさつ。できれば日本語で。

 そのよん。
 相手を見ても舞い上がらない。さけばない。飛びつかない。

 そのご。
 いきなり部屋に引きずり込まない。ドアを押さえて道を空け、相手がソファに落ち着くまでじっと待つこと。

 そのろく。
 飲み物や菓子を用意してのもてなしを怠らない。種類はそれぞれ最低三種程度は用意。勧めるのを忘れたら意味はなし。

 そのなな。
 いきなり手を出さない。抱きつかない。がっつかない。

 そのはち。
 いきなりベッドルームへ連れ込まない。

 そのきゅう。
 そこまで保たずにソファで押し倒すなどもってのほかです。

 さいごに。
 どんなにうざがられても1日1回。「すきだよ、恭弥。」




「あのねディーノ。ホントに、あなたってヒトは……」
「すまん恭弥。でも、黙って」



 とある部下がふざけ半分に取り決めた、「紳士としての心構えと10の掟」。
 二ヶ月ぶりに会いに行った恋人に、「今急がしいから帰って」と校門前で追い返された時に発生した。下半身直撃の必殺笑顔で。つまり今日だ。
 まあちょっとは反省してるところを見せようと、一応まじめに暗記して、念のために暗唱までした。
 だが結局、守られたのはさいごのひとつだけ。


「さっき誰かに、がっつくなって言われなかったっけ?」
「そっか? 気のせいだろ」
「…………(タメ息)」



 恭弥はうっすらと笑みを浮かべてオレを見たけど、やがてあきらめたようにゆっくりとオレの背中を抱きしめてきた。目を閉じるのは了解の合図。すきだよ、恭弥。それだけは忘れずにもう一度言って、あとはなりゆきに任せよう。
 とりあえず、紳士の掟なんてクソ食らえ、だ。

06年4月27日初出。