たとえば、指。
含むにしても咬むにしても、彼の指はその行為の比較的最初に、僕に対して与えられる部位のひとつだ。彼はセックスの最中に僕に指を咬ませるのがとても好きだ。
いつだったか、彼にその理由を訊いてみたことがある。
すると彼は大まじめに言ったものだ、こうすると僕のことが手に取るようによくわかるのだと。正常な感覚を徐々に狂わされていくさま。のぼりつめていく変化。解放されたがっているか。感じているかどうか。震えている。ようやく開ききった。意識が遠くに落ちていった。彼との行為によってもたらされるこちらの変化が、咬むという動作で瞬間的に、生々しく、ひたすら隠したがっていることまでがあまさず伝わってしまうのだそうだ。
「……いつもそんなこと考えて咬ませてるんだったね。ほんとあなたって、とことん悪趣味だよね」
「ん、自覚はあるな。特に恭弥に関しては」
まさか褒められたと勘違いしているかのように。僕が言うと、ディーノは決まってそう疑いたくなるほど嬉しそうに、満足そうに大きく頷くのだった。本当に知りたければどんな手を使ってでも吐かせようとするだろうから、直接的な方法以外で識ることに何か別の愉しみを見いだしているのだとすれば、つくづく変わったひとだと新鮮に呆れる。
長い夜が明けるけはいはなく、カーテンを引いていない窓の外には青みがかったグレーの空が広がっている。ちかちかと頼りなく点滅しながら過ぎていくのは飛行機だろうか。目の錯覚のようなか細い光を夢中で追っていると、ほらな、と彼がくすくす笑った。
「気もそぞろの時って、咬み方が赤ちゃんみたいなんだよな。奥歯で咬もうとすんの。すげえかわいい顔するんだぜ」
そう目新しくはないはずの癖を、たった今発見したかのように喜んで指摘する。舌の上に残る味は近すぎる彼のにおいとあいまって、僕の内側にざわざわと不埒な波を起こした。
「指は……飽きたな。もっと別のところを咬ませてよ」
「……恭弥にしてもらえんのはスゲー嬉しいけど、その言い方はどうなんだ。別の意味でこえーって」
ぺろりと舌を出しただけでこちらの意図をすぐに察するなんて、どれだけやらしい人なんだか。それにしても僕はとことん信用がない。ヒトのことは言えないけど。
体を起こしてもらって体勢を入れ替え、彼の足の間に顔を伏せる。ディーノは少し驚いたようだったけれど、僕の髪をくしゃくしゃにかき回しながら素直に足を開いた。その中心に潜むものに服の上から咬みついた。
「僕に咬み癖をつけたのは、あなただよ」
「それって口説いてるのか? それとも脅し? わっかんねー……」
「さあ? どっちだろ。自分でもわからないな」
あなたが差し出す腕もくれる言葉も、見せる笑顔も届く声も、すべてが不思議なほどすんなり僕の中に染み込んでいった。それがとても心地よかったから。
あなたがあなただったから。
「もしかして、この味にはまったのかもね」
暴いた皮膚の表面を舌でやわらかく撫でながらそう言うと、ディーノはなんだよそれ、やらしーの、と言って困ったようにほほえんだ。
えっちくさいヒバリ。のっけからこんなはしたない子で、ホントなんていうか……。