「すき」はだめ。
「だいすき」はもっとだめ。
「かわいい」なんて当然もってのほかで、「えろい」なんてうっかり口をすべらせようものなら、もれなく物騒な武器が飛んでくる。
互いを憎からず思っているコトを確認してから、数日後。修行の旅から並盛に戻った晩のことだ。思いは通じても意地っ張りは変わらないあいつは「学校にはひとりで行くから」と言い、オレには別行動するようにと言ってきかなかった。オレのクルマで送られてパーティ会場に向かうなんてまっぴらなのだそうだ。
正直むかついたのが、少し。かなり傷ついたのは事実。
おまえオレのことすきだって言ったじゃねーかよ。少なくとも「気に入ってはいる」って言ったの、アレはウソか? ……気まぐれか? 雲っぽい?
……ほんとバカだよねあなた、って、ばっさり切って捨てるのはヤメテクレはげしく落ち込むから。
「雲のリングのこと、やっとまじめに聞く気になってくれたのはうれしいけどな。どうして先に帰っちまうんだよ。表で待ってろって言っただろ?」
「待つわけない。ここに来たのだって赤ん坊の頼みだからだし、僕の気が向いたからだ。それ以外の理由はないよ」
「そうか」
腕のなかに囲ったひとの髪に唇をつけると、ふんわりいい香りがする。夜だというのに太陽の匂いだ。花の香りかもしれない。
すでによく知っている香りような気もするし、まったく未知である気もする。
これはヒバリから薫るものの話じゃない。こうしておとなしく膝に抱かれてる理由も、しらないっていう気なのかって。
尋ねてみたいような、こわいような。だからいまいち踏み出せないでいる。
ちいさな手の中にある指輪を取り上げて、薬指にはめてみたけど、サイズが大きすぎてくるくる回った。まるで自分を見ているみたいだ。まだなにもかもが微妙にかみ合っていない。わかってない。要成長、要努力。オレも、おまえもな。
「おまえがもう少し成長したら、サイズぴったりのラブリングとか買ってやるな。なあ恭弥」
「べつにいい。いらない」
ラブリングがなにかを知っているかどうかは別として、恭弥はオレの言うことには概ね呆れたような顔をする。ああもう鬱陶しい、と言わんばかりに長々と息を吐いて、左腕の跳ね馬めがけてくぁ、と歯を剥いた。
「そう言えばあなた、あいつらの前で呼び捨てにしたんだってね」
「ああ、うん」
「二度言ったら、ころすよ」
「ええっ」
だっておまえそれはやっぱささやかな所有権の主張っていうかバラせないまでもそこはかとなくにじませたいっていうか。
「必要ないから。次からは、人前では名前を呼ばないようにね」
にっこりと笑いかける。素直に聞かないところすよ、の意味で。
「うっわ、その顔すげーかわいい。やばい」
思わず口をすべらせるのとほぼ同時に、オレの目の前におなじみの凶器がひらめいた。ガツンと顎に一発、しっかり記憶に焼きつけたはずの笑顔は一瞬で吹っ飛んで、目から本気で星が飛んだ。