free bird

■ お読みいただく前に

全編に渡って、原作にはいないオリキャラが幅を利かせています
ディーノの刺青に関する設定が原作(小説版)と異なります / 初出 2006年7月25日
ディーノの性格がかなり日本人です
以上のことをご承知の上、先へお進みください

第一夜から読む

  第二夜
  第三夜
  第四夜
  第五夜(最終話)

 ねえ、ディーノ。
 いつかきみが大人になって、誰かを愛する時が来ても、
 翼を持ついきものを本気で好きになってはいけないよ──。




 立派に大人として扱われる年齢になってから改めて思い返してみると、あの刺青師の言うことはひどく感傷的で何の根拠もないものだったように思う。
 その男はディーノよりも一回りほど年上で、なんだかんだで十年来の長い付き合いになるのだが、ずいぶん慣れたと思っている今でも、ディーノは彼の常に酒に酔ったような意味不明な言動に辟易させられることがあった。
 その多くは恋愛に関する彼からの貴重かつ有益な助言(と本人は思っているようだ)に関するもので、つまり女を口説く時はワインと花束と最高級のチョコレートを忘れるなとか、男は一生に一度、自分だけの女神に出会うのだとか、そう言った赤面モノの台詞の類にである。



 ディーノが正式にキャバッローネの十代目を継ぐことが決定した時、これからの一生をファミリーに捧げる決意を体に刻んでくれたのが彼だった。初めて頼んだ仕事はファミリーの栄光と繁栄を象徴する輝く太陽と、天に向かって高らかに嘶く跳ね馬、それらを取り巻くキャバッローネの結束を表す鉄条網を図案化したもの。それは見事な出来映えだった。
 『いきものを生きたまま刻みたければ彼に頼め』と言われるほどの卓抜した技術、そして何より自分の漠然としたイメージを見事な意匠に起こしてくれた彼の腕前を気に入って、ディーノはそれ以来自分の体に模様を入れさせるのは彼だけと決め、生来の風来坊気質だったその刺青師をファミリーに迎え入れた。
 ファミリーの枠を超え多くの組織から厚い信頼を寄せられている無頼の殺し屋が目をかけ、さらにどこの組織にも属さず自分の腕一本で闇を渡り歩いてきた噂の刺青師を口説き落としたというので、跳ね馬ディーノは図らずも他のファミリーから思わぬ注目と嫉妬混じりの賞賛を浴びることになった。
 当時十代の新米ボスだったディーノにとってイタリアン・マフィア界全体にその名が知れ渡り、概ね好意的に受け止められることがどれほど意味のあることだったかは言うまでもない。あるいは彫師の過去の顧客つながりからビジネス的に大成功を収めた例も含め、彼の裏社会への影響力の大きさに驚かされ、助けられたことは一度や二度ではなかった。
 女にとことん甘く騙されやすいのはどうかと思うが、彼自身は歯に衣着せない率直な物言いや伊達男の名に恥じない洒落者ぶりや、非戦闘員なのにキレやすくけんかっ早いところまでが愉快な男で、ディーノとはお抱え刺青師と雇い主というより、親友か年の離れた兄弟のような関係が続いている。
 
 
 
 ディーノが彼と最後に会ったのは、現在よりも少し前──本国での仕事の合間に、久々に彼のアトリエに立ち寄った時のことだった。
 ディーノが生まれ育った屋敷の敷地の外れにある、平屋建ての簡素な屋敷。彫師はそこを住居兼仕事場にしていて、用がある時にディーノの方から彼の元に出向くことになっていた。
 その日ディーノは小さな屋敷の扉の前に立ち、ひとしきりその奇妙な光景を眺めた。オーク材の扉の向こうに延々と廊下が延びている。つまり外から屋敷の内部が丸見えだということだ。
(不用心だから閉めろっつってんのに、なんで聞きやがらねえのかな……)
 ため息をこらえつつ、ディーノは家の大きさからは不釣り合いなほど広々とした玄関に一歩足を踏み入れた。
 開けっぱなしの玄関扉。それは今に始まったことではない。夏ならまだしも、ディーノは冬でもこの家で最初に開けるはずの扉を自分の手で開けたことがなかった。
 なぜかは知らないが、彫師の住まいの正面玄関はいつも盛大に開いていて、そこを訪れた者は誰でも自由に出入りできるようになっている。ごく近い距離で暮らすようになってから長いが、ディーノが何度注意しても彫師はその不思議な癖を一向に直そうとはしなかった。それでいて本人はやれ暑いとか寒いとか文句ばかり言って、空調完備の閉めきったアトリエから一歩も出てこなかったりするのだ。
「よう。こいつは珍しいな」
「…………何してんだ、あんた。こんなところで」
 彫師の陽気で開放的すぎる──大雑把でいい加減な性質は、実に様々な場合に現れる。
 ディーノが廊下の突き当たりに位置する広いクローゼットルーム(そこは衣装部屋というよりガラクタ倉庫の趣で、中には膨大な数の衣装や履物や装飾品の類と、真鍮製の気味悪いボディとビニールでできた地球儀と中世風の羽根つきハットなどがいっしょくたに詰め込まれている)の前に立った時、問題の彫師はやはり無駄に開け放たれた扉の前の床に座り込んで、目の前に広げたスーツケースに無造作に衣類を投げ込んでいるところだった。
 陰影がはっきりしない濃い焦げ茶色の髪とオリーブ色の肌。タンクトップからにょっきり突き出る彼の細い腕には、隙間が見当たらないほどびっしりと模様が描かれている。精密で大胆な図案の数々は背中から肋の浮いた前へと続き、反対側の腕を裏表とも埋め尽くして両足首へと繋がっている。刺青をしていない箇所を探す方が早い彼の体は、肌の色が濃いせいで奇抜なカラーや模様が内側から滲み出しているようだった。
 モティーフになっているのは髑髏や鎖、それに空想上の動物までとかなり脈絡がなく幅広い。またその節操のなさがデザインとして破綻せずに、妙なバランスで一つのボディに収まっているところが不思議に魅力的だった。整った面の首から頬にかけて堂々と飾られているいただけない逆十字までが、得も言われぬ独特の雰囲気を醸し出すのに一役買っている。それらは彼本人の作品ではなく、ディーノが知らないほど昔に彼の師匠の手によって彫られたものだと聞いている。
 彼の生まれつきの外見に話を戻そう。
 はっきり言って、彼の容姿はかなり整っている方だ。
 一目で混血とわかるエキゾティックな顔立ちは、特に女性からの受けが非常によい。けれど本人は顔など人並みについていれば問題ないと思っているようで、洋服の好みはないも同然、自分を飾り立てることには呆れるほど無頓着だった。「着ているものなど翳んでしまう装飾が全身を覆っているのだから、服など何でも同じだ」というのは本人の弁だ。
 髪は黒、瞳の色は黄みがかった紅茶色。左右の濃淡がわずかに違うその瞳に見つめられると、そちらの気がない同性でもかなりくらっとくるという。
 その目は、今は見えていない。本人にこちらを振り向く気が全くないからなのだが──まあいい、女がらみでしょっちゅう面倒に巻き込まれているにしてはとりあえず元気そうだし、五体も満足であるらしい。
「近頃オレのボスはお忙しくてお見限りみてーだから、そろそろ退屈な籠の中を抜け出して、旅に出る支度をしようかと思ってたところだ」
 しばらく待っていると、つれない友人からやっと返事があった。
 変わりないのは外見だけではなかった。しばらく無沙汰にしていたくらいでは、彼の中身は何一つ、曲がりくねった迷路のような性格にも全く変化が見られなくて、ディーノはがっかりした。うっかり少しは丸くなっていないかと期待していたのだが。
「あんたな。その大人げないひん曲がった根性、そろそろ何とかならねーのかよ。ちょっと間が空くとすぐにコレだ。つき合いきれねーよ」
「んなことは、はなっからわかりきってるコトだろーよ」
 十年来の親友は、ディーノに背を向けたまま平然と言い放った。
「翼を持ついきものを狭い鳥籠に閉じ込めておくからだ。鳥ってのは大空を自由に飛び回るもんだ。自分の思う通りに羽ばたけねーと、さっぱり生きてる気がしねーのさ。お前の籠の鳥になってやる時に、オレはちゃんとそう言ったぜ。おぼえてねーのかよこのクソボスがぁ」
「あー聞いた。昔から、嫌になるほど聞いたって」
(ったく子供かあんたは! オレだって好きで忙しくしてるわけじゃねーんだ!)
 しかし彼の言い分を全面的に認めてやるなら、彼が拗ねるのも無理はない。ディーノが自宅の敷地内に建ててやった彼のアトリエを訪れたのはずいぶん前で、今日の訪問は約一年ぶりのことだったからだ。
 だからといって自由時間など皆無に等しいスケジュールを何とかやりくりして、久しぶりに顔を見に来た親しい友人からいきなり悪口雑言を浴びせられては、正直やりきれない。
「わかった、わかった。大事な友達をほったらかしにしたオレが悪かった。土産に日本の美味い酒を買ってきたから、これで機嫌直せって」
 ディーノは聞き分けのない年上の男を心の中で罵りつつ、度量の大きいところを見せようと、両手に提げてきた酒の瓶を目線に掲げて何とか笑顔を作った。
 同盟ファミリーの最高峰であるボンゴレのお家騒動に深く関わることによって、イタリアと日本との度重なる往復を強いられていたディーノは、ここ一年というもの──特にこの半年ほどは自宅に寄りつく暇もないほど仕事に忙殺されていた。沢田家光と連絡を取りながら、ツナの傍を離れられないリボーンの代わりに世界中を飛び回る生活だったのだ。そんなディーノに、刺青を増やしにお抱え彫師の元を訪ねる時間などあるわけがなかった。
 しかしこの自己中心的な芸術家に「忙しくて来られなかった」なんて言い訳が通用するはずがない。
 そんなディーノが、余暇とも呼べないわずかな時間を割いてでもここを訪れたのには理由があった。今回の帰国でやっと念願叶ってアトリエに来られたのだ。無下に追い返されるわけにはいかなかった。ディーノは覚悟を決めて、言いがかりのような文句を並べる彫師を宥めにかかった。
「で、今日は折り入ってあんたに頼み事があるんだ」
「お断りだな」
 ぱっと見は女のような顔立ちの色男が、つんとそっぽを向いた。大空を飛び回るのに必要な力強く美しい風切り羽を思わせる、艶のある濃色の長髪をばさばさと振る。
(土産の酒はさっそくしっかり飲んでるくせに……)
 ディーノはため息をつきそうになった。彼が使っているクリスタルのカットグラスがどこから出てきたのかは考えないことにする。少々の埃を一緒に飲み込んだところで彼は一向に気にしないからだ。
「本当にあんたときたら、腕と見た目は最高だが素行と性格は最低最悪だよな……」
「褒めても女の名前は彫らねーぞ。そんなもんを喜んで見せびらかす男はクソだ。墓碑じゃあるまいし、聖書の一部とかランボーのラリった詩もごめんだぜ」
「褒めてねーよ!」
(つーか、オレがいつそんなもん彫ってくれって言ったよ、このバカ彫師!)
 ディーノはぎりぎりと歯噛みした。しかしここで早々にキレては話が前に進まない。気を落ち着かせるために、彼に背を向けてゆっくり三回深呼吸する。こんなわがまま放題の男の一体どこを気に入ったのか、自分で自分に深く問いかけながら。
「そうじゃねえって。新しく彫ってもらいたい絵があるんだ。あんたに彫ってもらったら、絶対いいものになると思うから」
「言ってみろ」
「Allodolaを……色は黒で。日本語では「漆黒」っていうんだけどな。闇を溶かして流し込んだみたいに、真っ黒できれいな鳥の絵を頼みたい。ある人の名前を図案にしてーんだ。あんたは嫌がるだろうけど」
 ディーノが希望を告げると、黒毛の刺青師が初めてこちらを向いた。奇妙な動物を見るような目で、長年の友人を上から下までじろじろと見つめ、彼は唐突に大声を出した。
「日本の湿気で頭にカビでも生えたか? オレにかわいい小鳥の図案を彫らせるってか。ハ! 冗談じゃねーぞ。どうしてもって言うんなら他当たれ。オレはやらねー」
 ディーノは心中でほくそ笑んだ。かかったな。この程度の反撃はシミュレート済みだ。迎え撃つ用意はできている。
「つーことは、自分で言ったことを違えるってことか? 自分の仕事の横に他の奴の仕事を並べるのはごめんだって言ったのはあんただぜ。それが一流の彫師のプライドだとか何とか、偉そうに言ったよな。アレは嘘かよ」
「言うようになったじゃねーか、お子様が。オレがお情けで仕方なく仕事してやったのに、始めた途端にびーびー泣きやがったくせに」
「だったよな。あんたわざと痛いように痛いように針刺してくれたもんな。あの痛みだけはぜってー死んでも忘れねー」
 自ら望んで、痛くても絶対に我慢すると誓いを立てて始めてもらった刺青だったが、筋彫りの段階ですでに痛みに耐えきれなくて、何度止めようと思ったことか。その度にサド気のありすぎるこの男に罵倒され、時にはぶん殴られながら、半年がかりで最初の柄が完成したのは十五歳の冬だった。
 ディーノにとって刺青とは、自己の成長記録と同じものだ。
 泣いて泣いて、歯を食いしばって痛みをこらえ、絶対に無理だと諦めかけた過酷な場面をどうにか乗り越えてきた。それは刺青によってもたらされる傷の話だけではない。避けがたい仕事上のトラブルや仲間との別離や同盟ファミリー間の抗争など、痛みを感じる要素は生きていればいくらでもある──いつしかその痛みを自分の一部として受け入れられるようになって初めて、一人前のボスとしてやっていける自信がついたように思う。
 それ以来ディーノは、大きな仕事を一つやり遂げるごとに新しい柄を入れ、この山場を乗り切ったらあそこに色を入れようと楽しみにしながら次の仕事をこなすようになった。
 彼に彫ってもらった刺青はいつでもディーノを支える芯となり、剣となり、鎧となり、盾となってくれた。だからこそ今までに何度も命を落としかねない危険な目に遭いながらも生き延びてこられたのだと思うし、現在日本にいる師匠とは違う意味で、自分にはこの男が必要なのだと強く感じていた。
「超絶意地悪い上にどこもかしこも歪みまくってるけど、あんた腕だけは確かだからな。あんたの彫ってくれる絵にしか興味ねーんだ。すげー気に入ってる」
 兄にも等しい友人が明後日のほうを向いて鼻を鳴らした。
 絶対に満足させてやる、だからオレのものになれと、勢いで派手な啖呵を切ったのは昔のこと。男に求婚される趣味はないとばっさり切って捨てられかけた記憶も、今では懐かしい思い出のひとつだ。
 こうして彼と話していると、すっかり忘れていたような古い記憶が次々蘇ってくる。ディーノの前にいる男はまだ若く、自分は十五の子供に戻ってしまったような気がした。
「オレというものがありながら、他の女に乗っかってバラまいてるってか、種馬ディーノ」
 同時に、親友の口と底意地の悪さを再認識することにもなるのだが。
「ほんっと言うことが下品すぎんだよ、あんたは。それにその顔で誤解を招くようなことを言うんじゃねえ。新入りがまだ二、三人信じてんだぞっ。あんたとオレができてるって!」
「信じるってのは、それなりに説得力があるってことだろ。ヒノナイトコロニケムリハタタナイつってな」
「アジア嫌いなのに、何でわざわざ日本語で言うんだ? ホント変な奴だな。つーか親友の未来がかかってんだ。いさぎよく応援しやがれオッサン」
「未来、なあ」
 彫師はしばらく自分の手の中の、酒の入っていないグラスをぼんやり見つめてていたが、ふいに思いついたように顔を上げた。
「それで? お前はそいつをもう手に入れたのか」
「正直わかんねーな。だいぶ許してくれてるなーと思う時もあれば、ありゃ嘘かってくらいに警戒されて、指一本触れさせてもらえねー時もあるしなあ。こっちはとにかく必死にやるだけだ。毎日が闘いだから気が抜けなくて、疲れるのなんの」
 ディーノは笑って答えた。踏み込まれたら否定はしない、嘘もつかないと最初から決めていた。大事なことだからだ。
「わがままだし冷てーし口は悪いし気は強いし名前もまともに呼んでくれねえし何かと言えば人のことをへなちょこ呼ばわりするし、ホント手がつけらんねーっていうか、じゃじゃ馬っていうか」
「なんだ。オレとそっくりだな」
「顔が悪魔みたいにきれいなところは似てるかもな」
「ぬかせ。嬉しそうな顔しやがって」
「当然だろ」
 ディーノはこうして故郷に帰っている時ですら会いたくて仕方ないくらいに、雲雀に惚れ込んでいるのだから。彫師が疲れたように深いため息を吐き出すのを見ても気にならなかった。
「オレで懲りたんじゃなかったのか。鳥の名前を持つヤツにロクな人間はいねー。それが女ならなおさらだ。どんなに足が速くても空を飛べない、地面を駆け抜けるしかできねえお前さんには、到底追いつけやしねーよ。やめとけ、そのうち置いてかれて、泣かされんのがオチだ」
「オレが放浪癖のある気ままな鳥を一羽飼ってるのは知ってるだろ。そいつはまだオレの庭から逃げちゃいねーよな。それに賭けてみるのも悪くねーかなって」
「オレは羽を切られて長いからな。飛び方なんかとっくに忘れちまってる」
「よく言うぜ。オレが半年顔見せねーつって、逃げる気満々だったのは誰だよ」
 でも──とディーノは思う。懲りたというのはあながち外れではない。
 この男を口説き落とすのは骨だったし、自分だけの鳥籠に住まわせておくのはそれに輪をかけて大変だった。今度の相手はさらに手強い。雲間に隠れて美しい鳴き声だけを地上に届けるというあの鳥を──生まれつき自由に羽を広げて大空を往く人をずっと手元に置いておくのは並大抵の苦労ではなく、それなり以上の覚悟がいる。だからこの友人の手助けがどうしても欲しい。彼が必要なのだ。
「Allodolaは日本語で言うと雲雀……、名前は恭弥っていうんだ」
「……キョウ、ヤ、ヒバリ……?」
 ディーノが雲雀のフルネームを口にすると、刺青師は考え込むような顔でぶつぶつと呟いた。
「何かその名前、最近どっかで聞いたような気がするな。どこでだっけ……」
「ロマーリオにでも聞いたんじゃねーか? 雲雀恭弥。新しい雲のリング守護者だ。ちなみに恭弥は生物学上で言うと、れっきとした、オスだ」
 ──できるだけ平静を装って告ったのがよかったのだろうか。
 ディーノはその時初めて、高慢な毒舌刺青師のきょとんとした顔を間近で拝んだ。気をよくして「すげーだろ。本気で惚れちまったらしいんだ」と、ダメ押しで言う。すると不思議に胸が空く思いがした。
 彼は長いこと唖然としていた。ぽかんとした間抜け面をディーノの目前に堂々と晒し、しばらくして一言「ウソだろ?」と呟いたのだった。